2025.08.18
もし、あなたの施設の空調が真夏の午後に突然止まったらどうなるでしょうか。想像してみてください。
空調の停止は、単なる「暑い・寒い」の問題ではありません。業務やサービスの提供、さらには施設の信用問題にも直結します。
実際、私たちが現場で対応した事例の中にも、「夏の昼食時に冷房が止まり、施設利用者全員が不快な思いをした」という介護施設がありました。こうしたトラブルを未然に防ぐために、業務用空調の中でも特にGHP(ガスヒートポンプエアコン)は、定期的な点検とメンテナンスが欠かせない設備です。
GHP(ガスヒートポンプエアコン)は、その名の通り、ガスを燃料にしたエンジンでコンプレッサーを駆動する業務用空調機です。一般的な電気式エアコン(EHP)は、電動モーターでコンプレッサーを回して冷暖房を行いますが、GHPはガスエンジンでコンプレッサーを回すという点が大きな違いです。
この違いは、施設運用にとって大きなメリットをもたらします。
一方で、この構造は空調機+自動車エンジンとも表現できます。つまり、単なる家電製品ではなく、車と同じように定期的な点検・オイル管理・部品交換が必須なのです。
GHPは高性能で環境にも優しい設備ですが、構造上の特性から点検を怠るとリスクが非常に高くなることをご存じでしょうか。
これらは、点検を先送りした結果としてある日突然やってくるリスクです。私たちの現場経験でも、ほとんどの突発停止は、定期点検を行っていれば防げたケースでした。
ガスヒートポンプエアコン(GHP)は、一般的な電気式エアコン(EHP)とは大きく構造が異なります。EHPは電動モーターでコンプレッサーを回すシンプルな構造ですが、GHPはガスエンジンでコンプレッサーを駆動する複合的な設備です。つまり、空調機でありながら自動車エンジンを内蔵しているような構造といえます。この特性が、省エネ性や電力ピークカットの面で大きなメリットをもたらす一方で、エンジン機構ゆえの定期的なメンテナンスが不可欠という宿命を背負っています。
GHPの心臓部はガスエンジンです。このエンジンがコンプレッサーを回転させ、冷媒を圧縮することで冷暖房を行います。構造を簡単に説明すると以下のような流れです。
この構造は、エネルギー効率の向上と電力消費削減につながります。特に、電力ピークが集中する夏場の昼間でも、GHPはガスで駆動するため電気負荷を軽減できる点が強みです。しかし、このエンジン部分は自動車と同様にオイル管理、点火系統の点検、フィルターの清掃・交換が必要です。EHPでは考えられない「車の車検のような整備」が、GHP運用の前提条件となります。
GHPには定期的に点検・交換すべき消耗部品が複数あります。これらは単に摩耗するだけでなく、劣化を放置すると空調停止や高額修理につながるため要注意です。
エンジン燃焼室に火花を飛ばして混合気を点火する部品です。長時間の使用で電極にカーボンが付着すると、点火不良を起こし、エンジンが失火します。失火が続けば、運転が不安定になり、最悪の場合エンジンが停止します。実際、ヤンマー製GHPではこの状態になると「E0」や「E2」などのエラーを発報し空調が停止します。この状態になる前に定期点検告知「L8」が表示され、点検を促します。
オイルはエンジン内部の潤滑と冷却、摩耗防止の役割を担っています。時間が経つと熱や酸化によって性能が低下し、エンジン部品の摩耗や焼き付きの原因となります。オイルエレメントは不純物をろ過するフィルターですが、目詰まりすると潤滑性能が低下します。自動車と同じく、オイル管理はエンジン寿命に直結します。
エンジンに取り込む空気中のゴミやほこりを除去するフィルターです。汚れがたまると吸気効率が下がり、燃焼効率の低下や黒煙の原因になります。特に工場や厨房に近い環境では目詰まりしやすく、こまめな点検が重要です。
エンジンの回転力をコンプレッサに伝えるベルトです。摩耗や緩みが進行すると、異音やスリップが発生し、最終的には冷暖房が効かなくなります。ベルト切れは突発停止の典型例です。
クーラントはエンジンを冷却する液体で、冬季は凍結防止にも寄与します。劣化すると冷却性能が下がり、オーバーヒートの原因となります。方解石は排気ドレン水の酸性を中和する部品で、劣化するとドレン配管の腐食を招きます。
これらの消耗部品は、運転時間に応じた交換サイクルを守ることが極めて重要です。GHPでは一般的に、エンジン累積運転時間10,000時間ごと、または設置から5年ごとに消耗部品の交換が推奨されます。これを怠ると、部品の摩耗が進行して突発停止や高額修理に直結します。
GHPの点検不足は、以下の3つの重大リスクを生みます。
真夏の昼間に冷房が止まる、真冬に暖房が効かなくなるといった事態は、介護施設や病院にとって命に関わる問題になり得ます。製造工場では製品品質の低下や生産停止のリスク、商業施設では来客減少による売上損失につながります。
スパークプラグやオイル管理を怠った結果、エンジンが焼き付けば修理費用は数十万円から百万円単位になることもあります。コンプレッサーやエンジンの破損に至れば、機器更新を検討せざるを得ません。定期点検費用に比べて、突発修理は圧倒的にコスト高です。
GHPはフロン冷媒を使用しており、漏洩を放置すればフロン排出抑制法違反になります。フロンはCO₂の数百~数千倍の温室効果を持つため、漏洩は環境負荷としても深刻です。特に複数台設置している施設では、法定報告の対象となる可能性もあります。
実際の現場でも「冷房が効かない」「エラー表示が出た」という連絡の多くは、定期点検や消耗部品交換を怠ったことが原因です。点検を実施していれば、ほとんどのトラブルは未然に防げます。
GHPのメンテナンスは、運転時間の管理が鍵です。運転時間は室外機の基板(表示窓)で確認でき、多くのメーカーは以下のような目安を設けています。
運転時間は自動車の走行距離に例えると分かりやすく、10,000時間はおよそ40万km走行に相当します。これだけの稼働を無整備で続けることは現実的ではありません。だからこそ、GHPには計画的な点検と部品交換が必須なのです。
ガスヒートポンプエアコン(GHP)を安全かつ効率的に運用するためには、複数の点検・メンテナンスメニューを組み合わせて実施することが重要です。GHPは「空調機+自動車エンジン」という複合的な設備であるため、部品劣化や摩耗が避けられません。定期的な点検・整備は、突発停止の防止、長寿命化、法令遵守、コスト最適化のすべてに直結します。ここでは、ミヨシテックが提供する点検・メンテナンスメニューを、内容・メリット・注意点に分けて詳しく解説します。
GHP運用の基本となるのが年間契約型の定期点検です。定期点検では、運転時間や設置年数に応じて消耗部品の交換や清掃、性能確認を行います。作業内容は自動車の車検に近く、以下のような流れで進みます。
介護施設や病院、24時間稼働の工場などでは、年間契約による定期点検はほぼ必須といえます。点検のたびに報告書を残すことで、管理者は空調設備の状態を「見える化」でき、更新や修理の判断がしやすくなります。
スポット点検は、年間契約を締結していないお客様向けの単発対応メニューです。「最近冷えが悪い気がする」「リモコンにエラーが出た」「久しぶりに稼働させる前に点検したい」といったケースで利用されます。
作業内容は定期点検とほぼ同等で、以下を実施します。
例えば、デイサービスセンターの事例では、リモコンに「L8」定期点検表示が出たタイミングでスポット点検を実施しました。初回はスパークプラグ清掃で仮復旧し、後日部品を取り寄せて本復旧を行う流れになりました。このように、スポット点検は復旧までに数日を要するケースがある点を理解しておく必要があります。
GHPを長期間安全に使用するために推奨されるのがリフレッシュメンテナンスです。対象は設置から13年未満で累積運転時間30,000時間に到達した機器です。車でいえば過走行車のフルメンテナンスにあたり、主要な消耗部品をまとめて交換することで機器寿命を延ばします。
このメニューは、更新までの最後のひと押しとして計画的に実施すると効果的です。特に福祉施設や工場のように空調停止の許容度が低い施設では、30,000時間を目安に実施することで安心を確保できます。
GHPは冷媒としてフロンガスを使用しているため、フロン排出抑制法に基づく点検が必要です。全ての業務用エアコンには3か月ごとの簡易点検が義務付けられ、圧縮機定格出力7.5kW以上の機器は有資格者による定期点検が必要です。
また、フロンはCO₂の数百~数千倍の温室効果を持つため、漏洩防止は脱炭素経営やESG活動のアピールにもつながります。7.5kW未満の機器で法定点検義務がなくても、計画的な点検を行うことはリスク低減と環境貢献の両面で価値があります。
GHPの性能を長期間維持するためには、機器内部の清掃も欠かせません。室内機・室外機の熱交換器やドレンパンに汚れが蓄積すると、冷暖房効率が低下し、電気代やガス消費量が増えるだけでなく故障の原因にもなります。
定期点検と組み合わせることで、空調機は常に最適な性能を維持できます。特に介護施設や病院、食品工場など、衛生面が重視される施設では必須のメンテナンスです。
GHPは、定期点検・スポット点検・リフレッシュメンテナンス・フロン点検・洗浄の5つのメニューを組み合わせることで、安全性・効率性・環境性能を最大限に引き出せます。使用状況や施設特性に応じて適切なメニューを選択することで、突発停止や高額修理、法令違反といったリスクを最小化できます。
次の章では、これらの点検・メンテナンスが実際にどのように行われているのか、茨木市デイサービスセンター様の「L8」定期点検対応事例を通して、現場の流れと学びを紹介します。
ここでは、実際の現場で行ったGHP点検対応事例をご紹介します。今回取り上げるのは、大阪府茨木市にあるデイサービスセンター様で発生した、ヤンマー製GHPの「L8」定期点検告知対応です。この事例は、GHP点検・メンテナンスの重要性を理解するうえで非常に分かりやすいケースとなっています。
ある夏の昼下がり、デイサービスセンターの管理者様から「冷房が効きにくく、リモコンに点滅表示が出ている」とのご連絡をいただきました。施設では高齢者の利用者様が食堂で昼食をとられており、空調が効かない状況は非常に深刻です。特に高齢者は熱中症リスクが高く、空調停止は命に関わる可能性もあります。
お客様によれば、室内機のリモコンには「L8」と表示されていました。GHPのエラーコードはメーカーによって異なりますが、ヤンマー製では「L8」が定期点検告知を意味します。これは故障ではなく、累積運転時間が所定の時間に達したことを示す警告で、消耗部品交換や整備が必要であることを知らせるサインです。
今回のお客様は大阪ガスとの年間メンテナンス契約(保守契約)には加入されていませんでした。そのため、GHP内部のエンジンは長時間使用されており、消耗部品が交換時期を迎えていました。リモコンの点滅と冷房効率の低下は、この定期点検サイクルに関連したものだと推測されました。
現地到着後、まず室内機のリモコン表示と室外機の運転状況を確認しました。リモコンは確かに「L8」を表示し、室外機からはわずかに不安定なエンジン音が聞こえました。ここで最初に行うのは、エンジンの始動・燃焼状態のチェックです。
点検の結果、以下の状況が判明しました。
スパークプラグを取り外して確認したところ、電極部分にカーボン(燃えカス)が厚く付着していました。これは長時間運転により、オイルの燃え残りや微細な汚れが蓄積した結果です。点火不良の典型的な症状であり、GHPではこの状態が続くとエンジンが停止してしまうことがあります。
現場ではまずスパークプラグの清掃を行い、電極表面のカーボンを丁寧に除去しました。清掃後にエンジンを再始動すると、運転は安定し、冷房も回復しました。この時点で施設の空調は復旧し、利用者様も快適に過ごせる状態となりました。
ただし、清掃はあくまで応急対応です。スパークプラグをはじめ、オイルエレメント、エアエレメント、コンプレッサベルト、方解石、クーラントといった消耗部品の本交換が必要です。運転時間は約70,000に達しており、10,000時間ごとの消耗部品交換サイクルを大きく超えていました。ここで本格的なメンテナンスを行わなければ、近いうちに再度エラーや停止が発生する可能性があります。
お客様に状況を説明し、正式なお見積もりを提出したところ、すぐに決裁をいただきました。部品を発注し、3日後に本格的な点検・部品交換作業を実施しました。交換した部品は以下の通りです。
スパークプラグ【エンジン点火用部品】 | 清掃では限界があり、確実な点火のため新品交換。 |
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オイルエレメント【エンジンオイルの不純物をろ過する部品】 | 目詰まりすると潤滑性能低下につながるため交換。 |
エアエレメント【吸気中のゴミやホコリを除去】 | 目詰まりは燃焼効率低下の原因となるため新品に交換。 |
コンプレッサベルト【エンジンの動力をコンプレッサに伝達する重要部品】 | 摩耗が進んでいたため交換。 |
方解石【排水中の酸性水を中和する部品】 | 劣化すると排水管腐食リスクがあるため交換。 |
クーラント【エンジン冷却用の不凍液】 | 劣化するとオーバーヒートや錆の原因になるため交換。 |
交換作業は約80分で完了しました。作業後にはエンジン始動性、冷暖房能力、冷媒圧力、排気ガス状態を確認し、すべて正常値であることを確認しました。これで「L8」定期点検告知はリセットされ、GHPは快適かつ安定した運転に戻りました。
この事例から学べることは多くあります。
今回の機器は69,148時間運転しており、10,000時間ごとの消耗部品交換サイクルを複数回経過していました。累積運転時間の管理を怠ると、突発的な停止や高額修理につながります。
お客様は年間契約に未加入だったため、部品発注から復旧までに数日を要しました。もし真夏や真冬の繁忙期であれば、業務に重大な影響を与えた可能性があります。定期契約であれば、部品在庫や履歴管理により即日復旧が可能なケースもあります。
現場でのスパークプラグ清掃は一時的な対応であり、本復旧には消耗部品交換が欠かせません。応急処置だけで運用を続けると、さらに大きな故障を招く危険があります。
この現場対応を通じて、私たちは改めて「GHPは点検とメンテナンスが命」であることを痛感しました。施設の快適性と利用者の安全、そして運営コストや法令遵守を守るためには、計画的な点検と部品交換の徹底が不可欠です。
GHP(ガスヒートポンプエアコン)は、省エネ性や環境性能に優れた設備ですが、構造上の特性から、点検不足が重大なリスクを招きます。空調停止は施設の快適性だけでなく、業務継続や安全性に直結します。ここでは、点検不足がもたらすリスクを大きく3つに分類し、実際の現場で見られたトラブルの実例を交えて詳しく解説します。
点検不足による最大のリスクは、突発的な空調停止です。GHPはガスエンジンでコンプレッサを駆動するため、スパークプラグの失火やオイル劣化、ベルト切れなど、エンジン機構に起因する停止が発生します。真夏や真冬の繁忙期に空調が止まれば、施設運営に大きな支障をきたします。
特にリスクが高いのは、以下のような施設です。
高齢者や病弱な方が長時間滞在する施設では、空調停止は健康リスクに直結します。真夏に冷房が止まれば熱中症の危険が高まり、真冬に暖房が効かなければ低体温症のリスクも無視できません。実際、私たちの現場でも、夏の昼食時間に空調が止まり、利用者が汗をかきながら食事を取らざるを得ない状況がありました。緊急対応で復旧しましたが、管理者は「あと数時間対応が遅れていたら救急搬送もあり得た」と話されていました。
商業施設では空調停止は顧客満足度の低下につながり、来店客がそのまま退店してしまうこともあります。暑さや寒さに耐えられず、売上が一気に落ちるケースも珍しくありません。
このような突発停止は、多くの場合、定期点検と計画的な部品交換で防げるものです。定期点検契約に加入していれば、異常予兆を早期に発見し、繁忙期のトラブルを未然に回避できます。
点検不足は、突発停止だけでなく高額修理費用の発生にもつながります。GHPはエンジンやコンプレッサなど高価な部品で構成されており、部品の摩耗や焼き付きが発生すると修理費用は一気に跳ね上がります。
エンジン焼き付き | 50万~100万円以上 |
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コンプレッサ破損 | 機種によっては100万円超 |
100万以上になる修理では本体更新検討レベルの価格帯となります。
私たちの対応事例でも、長期間オイル交換やスパークプラグ交換を行わずに運転を続けた結果、エンジン内部が摩耗し、ついに焼き付きを起こしたケースがありました。この施設では、修理費用だけでなく、部品調達と工事日程調整のために約2週間の空調停止を余儀なくされました。生産設備の一部停止も重なり、突発的なコストは数百万円に達しました。
対して、定期点検と消耗部品交換にかかる年間コストはこの数分の一で済みます。つまり、「点検費用を惜しむと、結果的に高額な修理費用を支払うことになる」のです。
GHPは冷媒としてフロンガスを使用しています。フロンはCO₂の数百倍から数千倍の温室効果がある物質であり、漏洩を放置すると環境負荷が極めて大きくなります。このため、フロン排出抑制法により以下の管理が義務付けられています。
点検を怠った結果、フロン漏洩を放置すると、法令違反による罰則や行政指導を受ける可能性があります。特に全国展開している小売業や飲食チェーンでは、7.5kW未満の機器でも多数所有しているため、累計漏洩量が報告基準を超えるリスクがあります。
さらに、環境リスクも深刻です。例えば、R410A冷媒はCO₂換算で約1920倍の温室効果があります。7kgの冷媒が半分漏れただけで、6,720kg-CO₂(6.7トンCO₂)に相当します。これが複数台で同時に発生すれば、事業者としての環境責任が問われることは避けられません。
定期点検と漏洩対策を実施することで、法令遵守だけでなく、脱炭素経営やESG活動として社外にアピールできる利点もあります。
ここまでのリスクは、実際の現場で繰り返し目にしてきたものです。たとえば先ほどの茨木市デイサービスセンター様の事例でも、もしスパークプラグ清掃と部品交換が遅れていたら、真夏の食堂で空調停止による深刻な事態が発生していた可能性があります。
また、過去に対応した食品工場では、ベルト切れによる冷房停止が製品廃棄に直結しました。たった1本のベルト交換を怠っただけで、数百万円規模の損失に発展した例もあります。これらの事例が示すのは、点検を先送りすることのリスクは計り知れないという事実です。
GHP点検不足によるリスクは、業務停止・高額修理・法令違反・環境負荷と多岐にわたります。しかしそのほとんどは、計画的な定期点検と消耗部品交換で未然に防げるものです。
つまり、点検費用は単なる経費ではなく、安心運用とコスト削減につながる投資です。次の章では、法令対応の詳細とフロン排出抑制法への正しい理解について掘り下げていきます。
業務用空調機を使用するすべての事業者にとって、避けて通れないのが「フロン排出抑制法」への対応です。この法律は、温暖化への影響が非常に大きい「フロン類」の漏えいを抑えるために制定されたもので、点検や記録、報告義務などが細かく定められています。特にGHP(ガスヒートポンプ)やEHP(電気式ヒートポンプ)など、冷媒を使用する空調機は、年式やメーカー、規模にかかわらずすべてが対象となるため注意が必要です。
この章では、「知らなかった」では済まされないフロン排出抑制法の基本から、点検義務の詳細、罰則や報告義務まで、施設管理者が必ず押さえておくべきポイントを解説します。
フロン排出抑制法(正式名称:フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律)は、2015年4月に施行された環境保全を目的とする法律です。背景には、冷媒に使用されるフロン類(HFCなど)の温室効果が極めて高く、地球温暖化に深刻な影響を与えていることがあります。
例えば、業務用空調に多く使われるR410A(HFC-410A)の温室効果は、CO₂の約1,920倍。冷媒が数kg漏れただけで、数トン分のCO₂排出と同等になります。
そのため、法律ではフロン類を使用する機器(=冷凍空調機器)の所有者に対して、以下のような点検・管理義務を課しています。
全ての業務用空調機(冷媒機器)は、3か月に1回以上、以下の内容で簡易点検を実施する必要があります。
この点検は、事業者自身または委託業者でも可能ですが、結果は記録として3年間保存する義務があります。定期点検が不要な機種であっても、日常点検は義務であることを認識しておきましょう。
下記の条件に該当する機器は、有資格者による定期点検(精密点検)が義務付けられています。
この点検は、高圧ガス保安法等で定められた資格を持つ業者のみが実施可能です。点検記録は簡易点検と同様、3年間の保存義務があります。
年間で一定量以上のフロン漏えいがあった場合、国への報告義務が生じます。
※たとえば、R410Aが7kg入っている空調機が10台あり、1年で合計5台から半分ずつ漏れた場合、合計漏えい量は7kg × 0.5 × 5台 = 17.5kg
R410AのGWPが1,920なので、17.5kg × 1,920 = 33,600kg(33.6t-CO₂)
このように、冷媒が1台で少なくても、台数が多ければ報告義務が発生する可能性があるため、特に全国展開の店舗チェーンや病院、商業施設などは注意が必要です。
フロン排出抑制法に違反すると、罰則や企業としての社会的信用失墜が避けられません。以下の違反に対しては、行政指導や勧告、公表の対象となる場合があります。
重大な違反については、罰金(50万円以下)が科される可能性もあります。近年では、自治体や取引先からのチェックが厳しくなってきており、「CSR」「ESG」の観点からもコンプライアンス強化が求められています。
特に建築設備点検やISO14001、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)認証などに関わる企業・施設では、フロン点検の対応状況が評価に影響を及ぼすことも増えています。
法律上は「機器の所有者」に点検義務がありますが、実務的には空調業者との連携が必須です。以下のポイントを押さえて、点検・記録・報告の仕組みを整備しておくことが重要です。
点検スケジュールの管理 | 3か月ごとの簡易点検、年1回または3年に1回の法令点検か定期点検をスケジュール化 |
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点検報告書の整備 | 様式を統一し、PDFや紙で3年間保存 |
フロン漏えい量の記録 | 修理時に補充量と漏えい推定量を記録し、年間で集計 |
国への報告準備 | 1,000t-CO₂超が見込まれる場合、早めに業者と報告体制を整備 |
ミヨシテックでは、上記すべてを代行・支援する体制を整えており、「知らなかった」では済まされない法令対応をまるごとサポートしています。
GHPの点検とフロン排出抑制法は、別のようでいて密接に関連しています。
特にエンジン型のGHPは構造上、フロン漏えいだけでなく、排気ガスや騒音、振動などの管理も必要です。トータルで環境配慮型運用を行うためには、法令対応とあわせて設備の健全性管理(ヘルスチェック)を定期的に実施することが望まれます。
最近では、単に法令順守するだけでなく、環境・社会・ガバナンスを意識した「ESG経営」が求められるようになっています。空調管理においても、それは以下のような取り組みに表れます。
点検記録の整備や報告体制の構築は、単なる法律対応ではなく、企業価値を高めるための施策として位置づけられます。とりわけ不動産・福祉・医療・教育といった分野では、「環境対応が行き届いた施設かどうか」が利用者や投資家の判断基準となる時代です。
フロン排出抑制法は、単なる“環境ルール”ではなく、企業の社会的責任・法令遵守・コスト管理すべてに関わるものです。日常点検と定期点検を確実に実施し、記録と報告を正しく行うことが、空調設備の健全な維持につながります。
「知らなかった」では済まされない今、法令対応は“コスト”ではなく“信用を守る保険”と捉えるべき時代です。
GHP(ガスヒートポンプエアコン)は、電力負荷を抑えながらも安定した空調を提供できる、省エネ性・環境性能に優れた設備です。とりわけ介護施設、病院、工場、商業施設など、停止が許されない現場では、その力を最大限に発揮します。
一方で、「エンジンを持つ空調設備」であるという特性から、EHPと比較してメンテナンスの重要性が一層高くなるのもまた事実。点検を怠れば、エンジン停止による空調停止、オイル劣化による故障、さらには法令違反や高額修理といったリスクを招きかねません。
本コラムで紹介したように、
定期点検
スポット点検
フロン点検
エアコン洗浄や清掃
などのメンテナンスを適切に行うことで、GHPの性能を末永く保ち、快適な空調環境を維持することが可能になります。特に大阪ガス認定メンテサービス会社であるミヨシテックは、ヤンマー製・アイシン製・Panasonic製・ダイキン製・三菱製GHPの診断・修理・保守に精通し、設計からアフターフォローまでワンストップで対応できる体制を整えています。
空調は、「止まらないこと」が品質。
それを支えるのが、点検やメンテナンスといった日々の積み重ねです。
設備更新だけでなく、「いま使っているGHPを、いかに安心・安全に長く使うか」という視点で、今一度、点検の重要性を見直してみてください。
そして、設備の健康診断を検討される際は、ぜひ私たちミヨシテックにご相談ください。機種に応じた最適なご提案で、皆さまの空調環境を支えます。